ドラッカー「『経済人』の終わり」読了

まえがき

少し前に何となくドラッカーを読んでみようと思い立ち、ダイヤモンド社の「ドラッカー入門」をはじめに読んでみた。その後「じゃあ、最初期のやつを3つぐらい読んでみよう」ということでダイヤモンド社ドラッカー名著集の「『経済人』の終わり」「産業人の未来」「企業とは何か」の3冊とおまけで「経営者の条件」(と藤田和日郎の「月光条例 4巻」)をまとめて購入。ちびちび読んでいてようやく「『経済人』の終わり」を読了。
自分用の備忘録として背景と要約(本文内の文を切り張りしたり適当に意訳したもの)を記す。でも、そもそもドラッカーを知らないので認識違いがあるかも。

「『経済人』の終わり」の背景

「『経済人』の終わり」は1939年初版発行。ドラッカー29歳の頃である。原稿はヒトラーが首相になった1933年に書き始めたとのことで、1918年に第一次世界大戦が終わってから1939年に第二次世界大戦が勃発するまでのヨーロッパの状況が如実に反映されたものとなっている。
本書執筆時点でドラッカーはまだ「マネジメントの父」ではない。それは「企業とは何か」以降の著作/活動によって冠せられた名前であり、本書自体は第一文に記されているように「政治の書」である。
生国オーストリアの分割を体験し、ドイツでファシズム全体主義の台頭を目撃したドラッカーは、本書でファシズム全体主義が生まれた原因を解き明かす。

「『経済人』の終わり」の要約

第一次世界大戦後、戦後処理の失敗により世界的な大恐慌が発生したが、ブルジョア資本主義もマルクス社会主義もそれらを解決することはできなかった。これにより、それまでのヨーロッパで不変と思われていた伝統的な秩序、信条、価値観に揺らぎが生じた。合理的な力に支配されていると信じられていた社会基盤が、実は目に見えない不合理な魔物によって支配されているということが、戦争と恐慌によって顕わになってしまったのだ。
ブルジョア資本主義とマルクス社会主義は一般に相対するものとして語られるが、どちらも個人の経済的自由が社会に自由と平等をもたらすと考えている点では同じである。ブルジョア資本主義は個人が利潤を追求することによって機会均等をもたらし、ひいては自由と平等をもたらすとしたが、現実の社会には厳格に仕切られた階級が存在し機会均等により存在しなくなるはずの階級間闘争が依然存在していたため偽りの神であることが明らかになった。一方、マルクス社会主義は階級自体の解消を目論んだものの、実際には新たな階級を作り出したにすぎなかったため、やはりこちらも偽りの神であることが明らかになった。
これらの状況から大衆は絶望し、ヨーロッパの旧秩序を保ちつつ魔物を退治することのできる奇跡を求めた。
そこで現れたのがファシズム全体主義である。ファシズム全体主義は「前向きな信条の欠如と過去の否定」「権力の正当化の要求の否定」「信条と公約に対する不信ゆえの大衆の信任」という他の主義にはみられない3つの特徴を持つ。
ファシズム全体主義は経済中心であった前述の2つの主義とは異なり、経済的な不平等を非経済的な報奨によって相殺する。これを実現するためにいくつもの組織が作られ、それら組織活動への参加は強制される。また、個人の社会的地位は経済的地位とは分離され、職場の長やその息子は、党歴が若干でも長い肉体労働者の下に意図的に配属される。
この仕組みを回すためにファシズム全体主義軍国主義化する。現代社会において個々の人間の位置、役割、報奨が経済活動と完全に切り離される組織は、教会以外には国民皆兵の軍隊だけだからである。ただし、その第一義はあくまでも産業社会の形態を維持しつつ社会に対し非経済的な基盤を与えることにあるため、しばしば軍事目的よりも社会的目的を優先させることがある。
ファシズム全体主義は信条を持たず、新しい価値や秩序をもたらすものではない。それゆえ自らの組織を至高のものとして位置づけることに成功している間しか奇跡を実現することはできない。大衆もファシズム全体主義が幻であることを実感しながら、幻を信じ込むために麻薬の量を増やしていく。大衆はファシズム全体主義にのめり込むほどに熱烈に他のものを求める。そしてファシズム全体主義の道に代わるものが示されるや、ファシズム全体主義のあらゆる魔術が悪夢のように消えることになる。
大衆を絶望から救いだす新しい力をヨーロッパが見出せるか、それとも全体主義の暗黒の中を手探りで進まざるをえないことになるかは、ごく近いうちに決まる。

所感

ファシズム全体主義の「経済的な不平等を解消するための社会的な報奨」や「社会的な位置、役割が与えられることの重要性」など他の主義にない特徴が後のマネジメント論に影響を与えているようにも読めて面白い。
後年の雰囲気とは異なり、詰め碁のように理論を展開しようとしている感がある。ただ、個人的には冗長な部分も感じられた。
あと、このエントリ自体、後半眠くていい加減になってきた。

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